最近の小学校の校舎は色んなところがなかなか凝っており。
間仕切りが整理棚になっていて、天井付近は吹き抜けで、
隣接する部屋の気配が風と共にそよいで来るような、
いかにも開放的なところもあれば。
一階の教室には、ポーチに出られる掃き出し窓が付いていて、
教室からそのまま直接 校庭へ出られもしたりするそうで。
こちらの小学校も、さすがにサロンのような食堂ホールこそないものの、
一階の校庭側の教室は、
そういう出入り口にもなろうサッシの大窓仕様になっており。
授業も終わりましたの昼下がり。
五、六年生はまだ午後の授業があるようだけれど、
一年二年は昼前にとうに帰ったし、
四年生だとて、曜日によってはお昼までという日もあったりし。
お掃除が終わってのさあと帰ったお友達を見送って、
小さな坊やたちが二人だけ、
静かな教室で手持ち無沙汰なまま、お椅子に座って何かを待っててござる。
「アメンボ赤いな あいうえお、じゃなかったか?」
……今更 何言い出してますか、この坊ちゃんはよ。
開口一番にそんな憎まれを言い出すのは、
相変わらずの鬼っ子、金髪をツンツンに尖らせた、
蛭魔さんチの妖一くんで。
「え〜? アメンボって赤くないよぉ?」
ヒル魔くんたら間違いてるんだ…と、
鬼っこをそれと知らずやり込めてしまう、
天然坊やのセナくんもまた、相変わらずなようでございまし。
そして、
罪なく にっこし微笑っておいでの天使さんへは、
「〜〜〜〜そうかいそうかい。」
なまじ様々な機微への蓄積があるだけに…そんな部分が邪魔をするのか、
生意気だ〜〜っと怒鳴ったりこづいたりするのが大人げないと、
絶妙微妙なストッパーが掛かってしまう、
妖一くんだったりするのだが。
何でまた、授業もないのに居残っている彼らなのかといや、
二人がそれぞれに応援している知り合いのお兄さんたちのアメフトチームが、
放課後に合同練習をなさるのだとか。
セナくんが仲良しにしているのは、
王城シルバーナイツという、
1部リーグの上位チームのラインバッカー、進清十郎さんであり。
片や、妖一くんが仲良く…というか、びしばししごいておいでのチームは、
賊学フリル・ド・リザードという、
今の顔触れになった途端に、いきなり2部リーグ昇格おめでとうという、
例のない勢いの大躍進ぶりが注目されているのだとか。
そこの主将で、こちらさんもやはりラインバッカーの、
葉柱ルイさんというお兄さんが、迎えに来てくれることになっており。
それでとお掃除が済んでもお教室で待っているという次第。
「雨やんでよかったねぇ。」
「まーな。」
やんだと言っても昨日まで結構降ってたし、
今日だってすっかり晴れたわけじゃあない。
それにアメフトは、
サッカーやラグビー同様、雨になろうが雪が降ろうが、
基本的に中止にはならないタフなスポーツなので、
どっちにしたって練習はあっての影響はないのだが。
それでも気の問題というか、
雨続きだったここんとこ、くさくさしてしまいがちだったんで、
明るい陽まで射しているのは、確かに心地がいい。
「でもなんか、じっとしてると寒いよね。」
「そうか?」
そこは親御さんが気遣いして下さってのこと、
一応は薄手の上着を羽織っている二人ではあったが、
「ちょっと前までは、夏かってくらい暑かったのにね。」
「そうだよな。」
あのまま夏になっちまやいいのによと、
暑いのは平気なお元気坊や、
そんなことを言って金茶色の双眸をワクワクと瞬かせたが、
「え〜? セナは涼しい方がいいなぁ。」
このところずっとずっと暑い夏が続いているので、
それを思い出したか、ふかふかな頬を両手で押さえたセナくん、
ひえぇ〜っと口許を歪めてしまう。
とはいうものの、
「……っくちん☆」
すぐさま可愛らしいくさめが飛び出して、
窓辺で一緒に並んでた外を見やってた子悪魔坊やが、
おいおいと肩を竦めつつも、
傍らにあったデイバッグから取り出したティッシュを、
ほれと差し出すまめまめしさよ。
「何で衣替えの日って寒いのかなぁ。」
「お、よく覚えてたな。」
俺らには関係ないのによと、
制服関係者にのみ節目な日を覚えてたこと、
偉い偉いと褒めて差し上げれば、
「だって、進さんたちんトコは高校が制服だったでしょう?」
「……今は違うだろうが。」
それでも、と。
くっきり言い放ったセナくんだったが、
その心境は妖一くんとて まま判らんではない。
…というか、
「ルイんとこは、制服が有って無きが如しだったけどな。」
「??? なぁに?」
難しい言い回しへキョトンとしたお友達へ、
窓の桟へと載せていた腕をわざわざ上げての振り向くと、
「だから。賊学の制服ってのは一応あったけど、
ちゃんと冬服夏服って着方してたかは不明だったんだよ。」
「……………あ。」
ちょこっと省略されたお言いようだったが、
そこは……お付き合いが長いセナくんにもピンと来て。
「そか、葉柱さんたら、真夏でも長袖だったもんねぇ。」
しかも裾の長い“長ラン”という手合いで、
他の面々にしても、似たような装いだったような気が。
白地のそれだったから、見栄えはまだマシだったかもでしょうか。
昨日の雨を大きな葉にキラキラと乗っけて、
カリフラワーみたいなまだ白い粒々の集まりの蕾が、
たんと見えているアジサイの茂みが、窓の間近には植わっており。
「ここのは青いんだよね。」
「そっか、それでアジサイ青いぞ だったのか。」
くどいぞ、坊ちゃん。(笑)
…なんてな会話を交わしていた二人だったが、
「……お、制服組がいたぞ。」
「え? どこどこ?」
お迎えさんが来たの?と、
それにしてはバイクのイグゾーストノイズ聞こえなかったのにと。
こちらさんもすっかり慣れておいでの、
小さなセナくんが小首を傾げながらも窓のお外を見回せば、
「はや〜、よいちっ! せーなもっ!」
「あっ! くうちゃんだ!」
黄色い傘に黄色い雨靴。
今日は降ってない中なのに、完全防備に身を固めた金髪頭の小さな坊やが、
アジサイの陰からひょこりと登場。
白いエプロンスタイルの上っ張りは、
恐らくは長袖のスモックから衣替えしたそれだろうから、
「そっか、くうちゃんトコも制服を衣替えしたんだ。」
「うや? こーもがえ?」
子供用の小さいのだろに、
それでも肩先でくるんと回すと傘の重さでこけそうになる小さな坊や。
背後から追って来たらしいお父さんが、
素早くおっととと受け止めて難はなかったが、
「七郎兄ちゃん?」
「こんちは。お迎えに来たよ?」
お昼ご飯にってクラブサンドセットを大量にご注文いただいてね、
それの配達がてら、通り道なんでって君らのお迎えも引き受けたわけと。
にっこり微笑った色白なお兄さんの手元、
危ないからと傘を畳まれ、
ちょっと不服そうだった小さな坊やをひょいと抱えると、
「さぁさ、急いだ急いだ。」
アジサイみたいな笑顔満面。
それへ誘われて飛び出したおチビさんたちの溌剌さもくわわり、
その一角だけ、妙に目映かった校庭だったのだそうで。
梅雨本番となる前に、目一杯駆け回っておきましょうね?と
まだ微妙に柔らかな桜の若葉が、
風にあおられ、手を振ってくれた午後でした。
〜Fine〜 11.06.02.
*ホント、
毎年のことながら衣替えの前後って急に肌寒くなりますよね。
どうかお風邪なぞ召されませんように…。
めーるふぉーむvv 
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